ハイブリッド天国-泥から掘り出された金貨

アンドレアス・プライス ドイツ
和訳 ほしのまきこ

『ハイブリッド天国』(ISBN978-81-8253-175-8)はインドのCyberwit.net社( http://cyberwit.net/ )によって出版された著名な日本の俳人夏石番矢氏による第3句集です。2007年、2008年と続けて、『無限の螺旋』(ISBN978-81-8253-072-0)、『空飛ぶ法王』(ISBN978-81-8253-106-2)が出版され、134ページ、11章、合計240句もの膨大な量がそこに収録されています。

それまでに著者が没頭してきたことから分かるように、『ハイブリッド天国』は決して単なる量だけの作品ではありません。カバーデザインは日本の俳人であり俳画家である清水国治氏によって提供されました。不思議なことに、多くの詩集と同じように、そのデザインはぴったりと親しみの湧く印象を与えています。アメリカの俳人ジム・ケイシャン氏(世間ではレッドムーン社の創設者として知られています)は原文の俳句の和訳版から英訳を担当しました。最後に、著者の夏石番矢氏は明治大学の教授であり、世界俳句協会の共同創立者・ディレクターであり、吟遊社の代表取締役です。

『ハイブリッド天国』は韻律の固定化、つまり季語や俳句特有の古語に頼っていません。その結果、俳句の制約は現代的であり、国際的であり、非常に根本的でもあり、風格のある芸術であることをよく求めてくる偉大な句を強いて作らされるのです。

チンギスハンの馬は俳句を追いかける

伝統に忠実な独自の方法で、夏石番矢氏はこの句(p.42)にほんの少しの言葉を使用しています。芸術家としての人生のある場面だけでなく、著者の個人的な経験をより普遍的な解釈にまで広げています。ことによると、一見しただけでは分かり難いですが、すぐモリンフール、つまりモンゴルの「馬頭琴」を演奏できる人が出席した詩の朗読であることがその句から分かります。チンギスハンはその時、 偉大な人であり、インターナショナリズムを表す人である役をするばかりでなく、例えば、政治上あるいは軍事力のためのコードとしてさらに広い文脈でも読むことができます。それは、素晴らしい芸術品の代表である俳句とは対照的であると理解するかもしれません。

この調子でどんな解釈も出来得るために、「俳句に従う」ハン自身よりむしろなぜ偉大なモンゴル人のリーダーの馬にすぎないかのという疑問を求めてきます。限りなく深く考えることが起こり得るように思われます。

独自の言葉を使用するために、『ハイブリッド天国』に収められた俳句は、夏石番矢氏が詩的感覚で物質界の泥から掘り出し、むしろ好んで選ぶ(p.72)人によって読まれて、聞かれるように作った金貨に似ています。

泥から掘り出す金貨のような俳句はないか

夏石番矢著2009年『ハイブリッド天国』 アラハバード: Cyberwit.net(ISBN978-81-8253-175-8)