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第二十回吟遊同人総会

第二十回吟遊同人総会報告

The 20th Ginyu Haiku Meeting Report

Sayumi KAMAKURA

鎌倉 佐弓

 

二〇一七年六月二五日(日)午後二時から、東京都世田谷区の七月堂において、第二十回吟遊同人総会が開催された。参加者は、夏石番矢代表のほか、石倉秀樹、古田嘉彦、長谷川破笑、鎌倉佐弓の五名。

夏石番矢代表の挨拶は、今年が「吟遊」創刊二十周年にあたることに関連して、俳句が世界に急速に広がっている状況を具体的に述べるとともに、改めて「吟遊」の創刊の意義、理由、必要性などについて話があった。

具体的な「吟遊創刊二十周年記念イベント」は、主に「パーティー」(十月十九日開催予定)、『吟遊同人自筆五十句選』(すでに六月末に出版)、「第二回千代田区を詠む句会」(十月二一日開催予定)、「番矢先生!ようこそ今治へ」(十月二八日、二九日開催予定)、「吟遊・神戸カルメン句会」(十一月の日曜日開催予定)の六つ。それぞれの実行方法など、具体的に話し合った。

俳句の合評だが、この一月すでに「吟遊」第七二号、七三号の作品については行なっているため、今回は七四号のみ取り上げた。

 

清水滋生の俳句(評者=夏石番矢)

  3・11のいまここ傲然と街を行く

  生と死の狭間干潟を見て来たよ

  すべてを捨ててきた男は強ぇな雪解川

若いときに出会った。その後、三十年ほど俳句から離れていたというが、「傲然と街を行く」、「生と死の狭間」、「すべてを捨ててきた男は強ぇな」など、どれもきっぱりとした独自の表現で、今後に期待したい。

 

長谷川破笑の俳句(評者=夏石番矢、石倉秀樹)

ふと見れば冥土と読める駅をすぐ

  我が通勤朝な夕なに陽を背負う

「かめいど」から「冥土」の発見と連想、「陽を背負う」のペーソスに素質の良さを感じる。第七五号の投句もよくなり、第七六号から同人に推薦された。よい意味で実直さにユーモアを加えて励んでほしい。

 

古田嘉彦の俳句(評者=夏石番矢)

  酒樽の鰐と真水の一貫性

  「深海魚だ」が走っていく 謎解き好き

  プリズムの中でも決定的な折紙

予想や詠嘆や完結をずらしたところに、意図した不安定で未発生の美や連関を提示する。「酒樽の鰐」と「真水」の関係がありそうでないものに、「一貫性」と関連付けたところが独自。「『深海魚だ』が走っていく」のは好奇心豊かな子どもの光景。「謎解き好き」もわかりやすい。「プリズム」の内と外とで「折紙」を強調している。

 

鎌倉佐弓の俳句(評者=山本一太朗、欠席、ペーパーで参加)

  枯れたくない風がケヤキで大暴れ

  団栗に乗ってかすかに空も落ちた

  わかってる?お尻がスミレ踏んだこと

自然の捉え方に独自性があり、はっとさせられる。「枯れたくない風」は作者の願望か。団栗が落ちるのはあたりまえだが、それと一緒に「かすかに空も落ちた」と捉える視点が斬新。「お尻がスミレ踏んだこと」は、口語調で軽い言い回しだが考えさせられる。

 

夏石番矢の俳句(評者=古田嘉彦)

  この春は梢のほかは丸裸

  アラビア文字の反乱を糊と鋏でなだめる

  われらは非在ビルのどの窓にも踊る雲

  蛇を首に笛吹きながらトンネルの中

  旅人よ黒い隕石光るのみ

 「この春は」の句は、日本の風景に何か異常事態を感じる。「梢」に救いがある。「アラビア文字」は文字的に混沌があり反乱にふさわしい。「糊と鋏でなだめる」が童話的で楽しい。「われらは非在」の句は、誰もいない「ビルのどの窓」で踊る雲に、開放感と躍動感がある。「蛇を首に」の句は、トンネルの提示が不気味。心を締め付ける。「旅人よ」の句は、黒い隕石を旅人と見立てて呼びかけているのか。作者の弁では、昨年のモロッコ訪問直前、『千夜一夜物語』を読んでいたときの作。

 

石倉秀樹の俳句(評者=長谷川破笑)

 漢詩の世界をベースにした俳句。全体を貫く題材は詩、酒、艶。今回は十七字令で、令とは漢詩の世界での短詩のこと。五言絶句の起/承/転/結(合)の合を漢字二字にした、五-五-五-二の形式(計十七字)である。最後の二字で諧謔、滑稽、いわゆる落ちを伝えるのが妙味である。

起承句には随所に対句が見られる。

緑女伴紅男,白頭啜金盞。

花落盡天年,佛壇留句帳。

また、落ちは面白い。頭首の詩と尾首の詩の落ちで確認したい。

登仙贅叟為,雲雀。

天に登る贅叟(ご隠居)とは、天高く上がって歌う雲雀だという。上品な諧謔性、うふふとついほほ笑んでしまう。見事な手腕と思う。

 

山本一太朗の俳句(評者=鎌倉佐弓)

  うなづいて何にもわかっていない春

  春の空音のないメロディもあり

  鍋底に春菊貼り付き非暴力

 「うなづいて」の句の不思議な実感。とぼけたような明るさは持ち味の一つ。「春の空」の句は感性の鋭さを感じる。「鍋底に」の句は可笑しさ、皮肉がある。心に余裕のあるときとないときの句作に落差があるようだ。句の外にあるふくらみを味わいたい。

 

続いては、出席できなかった人の作品から気になったものを適宜、出席者全員で合評した。

Casimiro de Brito(カジミーロ・ド・ブリトー)の俳句

   O arco-íris                                           

separa o homem                                     

da sua mulher                                      

    

虹は

男を

女から引き離す

  作者がポルトガル人だからだろうか。老いの表現が日本人とは異なり、力強さがある。深く独自の精神世界を俳句に詠める貴重な詩人の一人。

 

鈴木伸一の俳句

  ふきのたう善意はときに苦くあり

 いつもは精神の奥をたずねるような句が多いが、今号は政治を扱っている。この句は心の在りようがよく伝わってくる。

 

新藤麦飲の俳句

短日やあまりに深き地下の駅

 実感が素直に詠まれていて共感できる。「短日」を配したのもよい。「桃の花ほどける音」も美しく繊細な表現。

 

仙川桃生の俳句

  ぼろぼろの上着のうえが春でした

 完成度が高い。「ぼろぼろの上着」の発見に味わいがある。独自の感性がある。

 

福岡日向子の俳句

  そうじゃない方のセーター着て抱かれる

 「そうじゃない方」の言い方が奇抜で大胆。実感もある。「君と居て灯台ひとつずつ灯る」も新しい恋愛句か。

 

たかはししずみの句

  干し肉かじる最高の最後の話など

 「最高の最後」の捉え方に共感できる。よく見つけた。考えさせるし、味わいも深い。

 

加用章勝の俳句

 全体に芥川龍之介の小説をもとに俳句に詠んでいるが、どの句も小説の内容に近すぎる。小説を説明している句もある。テーマを決めて詠む姿勢には賛成できる。

 

川口信行の俳句

次に来る方の為俺はすぐ去る 

 ワルぶっているがそうなれない。この句も人生の真実をついているとも読める。

 

松本恭子の俳句

人間一匹二匹三匹すみれ押し花

 花の世の二十二万羽殺処分

「吟遊」誌には久しぶりの発表だが、真実にせまろうとする姿勢に共感できる。「人間一匹二匹三匹」は、怖い数え方だが、「すみれ」が救っている。「二十二万羽殺処分」も数にぎょっとする。「花の世」が美しくも哀しい。

 

この後、場所を栄新楼に移して懇親会を行なった。この日注目された俳句などを中心に俳句朗読を行なった。朗読動画五本は、YouTubeのBan’ya Natsuishiアカウントにアップされている。